第78期感想

#1 ラン・ホース・ライト
盲目の人間が転んで杖を手放してしまったとしたら、その人は立ち上がらずにはいつくばって杖を探そうとするのではないか?というところからはじまり、まったくもって「杖をなくした盲目の男」のリアリティがない。うすっぺらい。状況しかない。そのくせ、ラストにうまいこと言おうとする。小説だよな。小説。ひどいつくりばなしだ。


#2 人間観察
おとうさんがちょうちょの解体なんてはじめたら息子大興奮でしょうが。と思うのだが最近のこどもたちは違うのだろうか。とゆーか、冒頭のこんなていどで『毒をはく』なんて言っちゃうお茶目人間にはちょうちょの羽をむしるなんておおごとなのかもしれない。
何と言うか、とても狭い世界で勝手に深刻になってるなあという。


#3 一滴の救い
椎名林檎!って感じ。一滴って精子のことだろうか。そんなまさか。というところも含めて。


#4 『時を忘れた時計屋の話』
うまいんだろうけどよくわからなかった。鐘の回数と時計屋の腕時計が指す時間のあれこれが。よくわかんなかったけど、たぶん押井守とか好きなんだろうな。と思った。


#5 明るい
『もてあまし』って作者名おもしろいな。


#6 Bライン
おいおい。ハゲでやせててフラフラで歩いてるからと言って仕事がんばってきたとは限らないだろ。あれか。ヤンキーが捨て猫に餌やってるのを知ってうっすらと恋心が芽生えてきた学級委員長(眼鏡女子)の心理か。しかし真理だ。この世界では劣っている(とされる)ものが有利であるということがままある。
でも、他人に共感を得られないけど自分だけの価値観を持ってる俺かっこいいの精神っぽくてなんかやだなあ。
「言葉でうまく説明できないかっこいい・美しい・キレイなこと」を小説で表現するという、安心させておいて背中をナイフで刺すような作戦であるな。


#7 紺色のマフラー
『登下校のバス』。とてつもなくノスタルジー


#8 水分茶屋 中川口物語-暮六つ
胡瓜。油揚げ。河童。狐。よく意味がわからない。客が「逢魔が時」だと思ったのは、狐だか河童だかに化かされていたってことなのか。金を枯葉に変えられていたと。それを店主が気づき、店の奥からながめて笑いをかみ殺していると。店主自体が狐なわけではなかろうが。店主が狐だったという話の方が理解しやすかったやもしれぬ。いや、やっぱり店主が狐って話だろうか。わからん。
店主が狐だったにしろ、狐に騙された客を店主がからかってるにしろ、どちらも話自体はたいして面白くもない。オチに対する興味がないから。
たぶんこれ、舞台を現代の喫茶店にしたら非常に味気ない作品になったと思うんだよね。狐に化かされるなんてふつうあり得ないし。それが時代劇っぽい舞台だと途端にリアリティを帯びてくる。とか考えてるのだとしたらそれはあさはかだと思う。おれたち読者を甘く見るんじゃないぞ。単に作者が時代劇めいたものが好きなだけかもしれんが。


#9 道
なんかほれ、ちょっと昔だとバンプ、今だとRADWIMPSとかそういうのが好きなほれ、な、そういうのだろ。比喩でうまいこと言おうとする系の。
誰かが助けてくれることを期待して後ろ向きに歩くようなのは自意識過剰というよりただの馬鹿なので派手に転んだうえに肥溜めに落ちるべき。


#10 尋問
「11にはかなり作為的なものを感じます」。いいなこれ。
主人公のモノローグは不必要。陳腐。テンポを乱す。これらの質問に対して主人公がどう思って答えているのか伏せてもよかった。んじゃないかと思う。「いっそ殺して欲しい」も過剰。
目指すところはなんとなくわかるので、もっともっと尖鋭化したほうが、この手の話は面白くなる。


#11 ある雨の日
「私を、錯覚させる何かがある」奇妙な味わいのある表現だ。好き。
おそらく、作者は実際にこのような体験をしたのではないか、と思われる。なんとなくわかる。体験を言語化すること。と、小説、は、異なる。はずだ。小説とはなんぞや?


#12 観光地異聞
このようなツッコミどころ満載の文章を書く人はなにを考えているのか(または考えていないのか)、謎である。自問自答するのか、しないのか。一夫一婦制の猿。婚約する猿。人間の首を噛み切るほどの顎をもつ猿。作者が自分の中でどう折り合いをつけているのか知らないが、俺にはぜったい書けない文章である。
あと、「怪奇事件」じゃなくて「猟奇事件」じゃないのか? 言語感覚の問題だろうか。
しかし一票も入るのだ。それこそ怪奇事件だ。人間の心理の。


#13 お茶っ葉な女の子
わたしたち女性は使い捨てのティーバッグじゃありません!出涸らしなんて言わないで!と中年女性が主体のフェミニスト団体に怒られることになるぞ気をつけろ。
女の子の外見の描写があまりにおざなりすぎて無駄だ。
冒頭のセリフが意味不明すぎてこわい。ラストのセリフもこわいけど、これはおそらく狙って書いてるので想定の範囲内というやつだが。
つーか、ティーバッグつかうときは俺はティーバッグの上からお湯を注ぐよ。「さあ、ぶっかけて!」の展開になる。


#14 ひとり暮らし(She is a university student)
「1月分だけでもいいので」は嘘だろ。なぜそこで嘘をつくのか。それとも、そんな控え目なNHKの奴が本当に居るというのか。
オチに力を込めるのはいいのだけど、オチがわかると次読むときに面白さが激減するという作り方はもったいないと思う。よほどの破壊力がなければ。「冷静と情熱の間から伸びている蛇口」とかなんかそういう洒落た表現にこだわるのか、構成にこだわるのか。千字は短いので。
面白くなくはない、から抜け出すのは並大抵の努力ではいかんです。


#15 若き兵器の悩み
自分たちの世界を『旧世界』と呼ぶことに違和感をかんじないのか。
「兵器なんかに自我をもたせるなよ」というツッコミに対してどう回答する気なのか。
世界観の設定がひじょうに安っぽいなあ。とってつけたようなシチュエーションだ。
で、これ最後は、結局兵器は使われなかったってことだよね。でないとジレンマの海で溺れて死んでしまう。


#16 続く
音楽準備室というところがえらく生々しいような気がしたが、他はとくになんとも思わなかった。


#17 叶わない願い
直観しすぎ。もうちょっと頭使え。
「憧れの上司と不倫できそうだったけど、やっぱりやめた」というだけの話のはずだが、全体的になんかわかりづらい。


#18 サードラブ
よかったね。


#19 傾斜
古井由吉の杳子を読みなおしたくなった。なんとなく。しかし手元にないのだった。
『こまかな格子縞に縁取られた、巨大な、それはもう巨大な図表用紙に俯瞰される一つの小さな点』というのはただしい描写なのかどうか。「図表用紙に見下ろされる点」って意味わからん。その後の比喩を読むと、むしろ「図表用紙上の一点」であるように思えるのだが。どうか。
『そのような按配にことが運んでいればよかった』という結びもなんだか違和感あるなあという感じだった。「そのような按配にことが運んでいれば、」で切って次の文に繋げたほうがよかった。
無理してたどたどしい長文に膨らまそうとしているという印象。


#20 セクシャルバイオレットNo.1
変態の話だ。


#21 二世帯住宅
はい気をつけます。


#22 蒸しまんと
美人の女の子と何の苦労もなくぼくの部屋で一緒に暮らすことになるような話はもう村上春樹の小説だけでじゅうぶんだ。中国人とか。
タイトルにもなっている蒸しまんと粥の描写がとりたてて美味しそうにも思えなかったのでもはや存在意義すらあやうい作品だ。


#23 梅に猿
いい話だ。ライトノベルだ。
文章もうまくて安定感があるが、もうこれ以上おもしろい文章は作れないのではないのかという心配もある。余計なお世話だ。一定のテンションを持続させるのも大変なことだ。


#24 変態
のびきったパンツのゴムみたいな舞城、みたいな。なめらかに流れてひっかかりがないのでつまらない。


#25 空間
シチュエーションがさっぱりわからないけど、たぶん男の彼女を寝とったというようなことでしょうか。
何を書きたいのかが不鮮明。結局「ナイフ」って言いたいだけだったんとちがうか?と勘ぐってしまう。


#26 嫌
わかりやすい典型的な大学生だな。ちょっとネットにくわしくてテレビでは伝えられないほんとうのことを知ってますよ、というような。最終的に自己嫌悪に陥るところまで、まったくありふれたお話だ。
卒業論文に使いたい資料が近場の図書館にはないので、国会図書館に通うようになって二週間が経った』は読点の位置的に気持ち悪い文章だ。だって、「卒業論文に使いたい資料が近場の図書館にはないので二週間が経った」っておかしいでしょ。「卒業論文に使いたい資料が近場の図書館にはないので、二週間前から国会図書館に通っている」くらいでいいんじゃないか。あるいは、「卒業論文に使いたい資料が近場の図書館にはないので国会図書館に通うようになった。今日でもう二週間になる」とか。


#27 ホーム・ホーム・ホームレス
『気が付いたら、女は少しのあいただけホームレスになっていました』
誤字がすげー気になるけど、なんか面白い文章。誤字が気になるけど。


#28 R
GACHAPINのどこにRが入ってるんだ? って誰かぜったい言ってるよな。
ところで、http://tanpen.jp/34/18.htmlはおもしろかったですよね。


#29 フォークロア
12桁の暗証番号のドア鍵なんてぜったい無理。覚えられない。
『一度あいつの部屋をぴっかぴかにしてやれば、もう汚さなくなるんじゃないかと』能天気だなあ。都合よすぎる考え。
どちらかというと、主人公の方が異常だよな。おっかねえ。
俺はこういう「主人公が読者に語りかけてくる」文体がきらい。「な、おもしろいだろ?」的なふんいきが。


#30 金子口輪社
裸の大将。ではない。
減愛という単語が強い。視線をくぎ付ける。


#31 青空(空白)
ナイフ!ナイフ!ナイフ!
挿入されるこの変な詩のようなものはいったい何なのか。語りすぎじゃないか?
青空が眼球に貼りついたという表現はいつかパクりたい。


#32 とある二月の昼下がり
先輩ッ!
やはり乙女の妄想力は異常ですよね。もっと妄想ください。具体的には、『追いつかない行動力と空回りするチョコレート』の辺り、もっと深くアレしてよかったかと。