第76期感想

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第76期→http://tanpen.jp/76/


#1 黒い羊 / アンデッド
つまりこれは死の間際に綾波レイの亡霊をゆめみるネルフの方々と同じ心理なわけですね。わかります。
男が電車に吹っ飛ばされたあと、遡ってその直前の描写をするってのはなかなか面白いような気もするけれど、視点が同じならべつに時系列に沿って書いてもあまり違いはない。構成に気を使うならもう少し五十円玉がどうとか書いて欲しかった。なんだよ五十円玉が希望って。


#2 カラーコンタクト / 藤舟
「わたしはダメ人間です」とまるで自慢話のように語る人間のことがきらいだ。変わりたきゃ勝手に変われよと思う。
日記か?それとも私小説風なアレだろうか。共感を得られるか否かで評価が変わる、ってつまらないな。


#3 蜘蛛 / 腹心
舞城王太郎の小説の冒頭部分といった感じ。だったら舞城読むから別にいらないよっていう。


#4 歪み / のい
『私の心はその日、壊れてしまった』とか『この家から人が出てくることは二度となかった…』とか語る主体の設定がおかしい。歪んでる。どうせ作者はなにも考えてないんだろうけど。


#5 乾燥胎児 / Azu
しんどい。実話なら悲しい。作り話なら、こんなどうしようもない話を作ろうと思い至った作者のこころうちが悲しい。


#6 エイミー / yasu
自分のブログに書く以上の意味をまったく見いだせないほどの内容の無い内容だった。とかいうとまるでブログを貶めているみたいじゃないか。ブログに失礼だ。
つまり。小説を読みに集まってきた人々に読ませる意味が希薄ということ。


#7 パワーストーン / 暮林琴里
実は店員目当てで毎日きてた客、という話かと思ったら違った。何だったのこの客?


#8 春はめぐる / 葉っぱ
いやだから実は俺自身が幽霊だったっていうのはアレだろ?ほら、あのハゲの死なない男の。
ふつうに文章はうまそうなのでふつうの話を書いてみたらいいんじゃないかと思った。
あと、暇にふりがなを振るのは読者を馬鹿にしすぎだと思った。読めるし、読めなきゃ調べるっつーの。


#9 『レッドキングの結婚』 / 石川楡井
ようやく面白い小説が出てきた。これがあるから短編はやめられないのだ。というわけでもうすこしちゃんと読むので今日はここまで。
やっぱり愛情なんですよね。愛情。愛情がエネルギーになる。エネルギーが込められた文章は緊張感がある。ただ、その緊張感が長く続かなかったのが残念。少年が人形たちのことを忘れるくだりはもう少しなんとかなったんじゃないかなあとも思う。でもよかった。


#10 写真班員と市場 / クマの子
『孩語う』って何?老爺よりそっちがわからんかった。
市場の写真は撮ってないの?なにか写ってないの?とか、何の本?みたいな疑問は浮かぶけれど作者が想定してないだろうから別にどうでもいいなあ。雰囲気だけなのか?


#11 新しい神様 / euReka
『ユミコ』が狐であることについて何の感慨もわかないというか、まったくユーリカ!な気分にならなかった。いや、だってさ、主人公は別にだまされたわけでもなんでもなくてただ『変なことに付き合わせ』られただけじゃん。このユミコ=狐の存在意義ってなに?


#12 糸電話 / 森下萬依
冒頭のまわりくどさはすごい。すごい言い訳がましい。しかし単にセックスフレンドとしか思われていない男性に対して「糸電話の関係」とか言っちゃえる女なんだからこのくらい言い訳がましくていいのかもしれない。というか糸電話である意味がよくわからないが。
一方通行ってこと? ならもっとうまい喩えがありそうなものなのに。あるいはもっと糸電話で押してくとか。


#13 晴れ時々曇りのち晴れ / 和泉
ま、天才だからさ! これはいいぞ。俺も使っていきたい。
恋する人間のいじらしさというはもっともっといじらしいものなのでもっとたくさんいじらしさについて研究してほしい。


#14 家路 / 眞鍋知世
車の後部座席のシートで手紙を見つけるのはちょっと強引すぎる気がしないでもない。が、見つけたのならそこにあったのだろう。ということにする。物語において整合性を優先するか演出を優先するかというのはむずかしい問題だ。特に短い文章では。
『今、どこにいるんですか』には返事もなく、自分の中で答えを出すこともできず、いつまでも宙ぶらりんなままでわだかまりつづけるので句点が無いのだな。せつない。


#15 霧 / K
退屈な文章が文学なのではない、と言ったのは誰だったか、おれだったか、忘れたが、とにかく、描写というものは空間分解能が高ければそれでいいというわけでなく、小説は文字の集合体であるので、やはりそこは文字であることの存在意義というか、文字と文字の連なりのうつくしさだとかたどたどしさだとか、そういった面白さを求めてしまうのである。と言っても、そんなもの所詮はおれ個人の嗜好なのであって、一般性はまったくないのだった。
深い霧とあいまいな町並みの中で、犬の鳴き声が男にとっての希望なのか、どうか。どちらかといえば、そういった何かと何かの関係性について書かれたものの方が好みではある。これもまた嗜好だが。


#16 押入れの独楽 / 宇加谷 研一郎
なにが良いって、好きなものについての話が書いてあることだ。暗い話だとか○○が嫌いだという話とか、だれかが死ぬとかだれかを殺す話なんてまったくぜんぜん読みたくないのだ。そして、おそるべきは、読んだ後に「好きなものがあるっていいなあ」という気分になることだ。いいなあ。


#17 目覚めたとき / 芥川ひろむ
20畳もあるような豪華で豪勢な部屋なんてまったく見たこともないけれど乏しい想像力でなんとか書いてみましたという感じ。『水槽はとても大きい。何という大きさだ。特別に注文しないとないくらいの水槽なのだ。』というような所に、語彙の限界を感じる。
『天井は、高く広々した感じがある』ってさ、「高い」も「広い」も比喩じゃなくて見たまんまなんだから『感じ』っていらないよな。身長が2mある人に対して「あなたは背が高い感じがします」なんて言わないだろう。


#18 アカシック・レコードをめぐる物語 暗闘編 / 黒田皐月
「未来はわかるけど、変えることはできない」とするなら、その「未来を記した物体」に存在意義はあるのだろうか? 在って無いのと同じことだ。在って無いようなもののために人がたくさん死んでばかばかしい。
掲示板を見たら『人を殺せばお話になると思っているのであれば、物書きなどやめるべきだと言いたい。』なんてことが書いてあって、絵に描いたような二枚舌だなとおそろしくなった。ファンタジーなら人が死んでもいいとでも思っているのだろうか。
とゆーか、考えてみれば、そもそも「○○を書けばお話になるとでも思ってるのか!」って何に対しても言えるよな。「初恋を書けば小説か!」「別れを書けば小説か!」「少年の成長を書けば!」みたいな。前におれも似たようなことを言っていたな、確か。


#19 さよなら / 三毛猫 澪
いやん、青春じゃないの。『それは私』とか言っちゃって、おもいきり自分自分な感じでまさに思春期まっさかりの女子だな。この「再現フィルム→もみじの葉を独りいじる私」のシークエンスで乙女の妄想がそらおそろしいまでに炸裂し、超自分の世界に浸っているところに好きな男子があらわれる(しかも半ば引いてる!)という究極的な羞恥たるや想像するだけで足が震える。そりゃもう『さよなら』だわって思うよ。


#20 ワン / るるるぶ☆どっぐちゃん
冒頭部分(ナイフ、少女、ソファ、死体、イタリア人)は照れ隠しだろうか。それくらいにストレートな内容だ。ストレートな内容だわん。そしでおれはこういうのが読みたかったのだ。


#21 カタマタクラ男爵のトースト / えぬじぃ
ふつう。老園丁のキャラが中途半端。


#22 檻の中の仔猫 / qbc
仔猫かわいそう。なんだろうこの胸がざわざわする感じは。『という小説を読んだ』がひどく寒々しい。こわい。