うすい霧がかかった夜の湿った空気はまるでだれかの憂鬱のようで、そんなもの吸い込みたくもないのでことさら大きく煙を吐き出す。だれかの憂鬱をかき散らす。おれ自身の倦怠ごと。


ばかか。倦怠なんてひどい嘘だ。嘘つきの手はふるえる。たばこを持つ右手が、指と指のあいだに挟んだたばこの先端の赤い火がこきざみに揺れている。暗闇に冗談がまたたく。