短編第47期感想

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今回は敬語をやめてみましたらあら不思議、なんとも偉そうな文面にはやがわり。かなり思考を飛ばしてるので、作者が全く意図していないわけわからんことを書いている可能性もあるんでごめんなさい。


#1 Notice!!(キリハラさん)
主人公の女の子がとても活き活き描かれてるのに対して、彼氏がほとんど人間的に描かれていないのが残念だった。そこまでクローズアップされるような登場人物ではないのかもしれないけれど、せめて硝子瓶と同じくらいの説明をしてあげてほしい。


#2 白くなっていく(藤舟さん)
主人公の女の子はいろいろ考えているようで、実はなにも考えていないようにも見える。足が美しいのが自慢だと言っても、誰かに自慢するわけでもなく、「そういえば足が美しいのが自慢だったなあ」くらいにしか思ってなさそうで、今をぼんやり生きてるんだろうな。
白くなっていく、というのが、色がどんどんなくなっていって最後に白くなるのではなく、白がどんどん上塗りされていくというのが面白い。リノリウムの床を触った手をズボンで拭くとズボンには白い埃の跡が上塗りされていく。思わず、深く考えずにとった行動にも、きっちりと結果が残される。それから、適当にその場しのぎで考えた将来の夢も、あっさり友達に否定される。彼女には何もないように見えて、でも、確かに現実が上塗りされていくのだ、とか全く見当違いなこと言ってたりして。


#3 誰かを好きになるということは……(佐々原 海さん)
けっきょく、誰かを好きになるということは素直になることなのか、そうではないのかよくわからなかった。要するに、好きという気持ちを相手に伝えなくたって、自分の中でそう思ってればそれでいいってことでいいのかな。



#4 Tの基準1(ストレンジャー徳治さん)
最も秀でた異常性とまで言ってるのに、久しぶりに誘われたからといって、その部屋の汚さを忘れるというのはちょっと無理がある展開だと思う。
うんこを汚いと思ってるんだからまだだいじょうぶだよなあ。


#5 街灯はジィィと鳴く(exexebさん)
「〜たんだ」という語尾に馴染めなかったけれど、後半部の雰囲気はかなり好きです。17歳ってのは、そうやって世界のディテールを知ってくんだなあ。


#6 とある少女と青年の会話(さきはさん)
この少女は何かを信じたがっているのだと思うけど。僕だったらこんなこと言われたら怒りますよ。だって、こいつはきっと、「うまいこと言ったぜ」ってしたり顔してるもん。
「絶対などないということの絶対性」だとか、「永遠は永遠にやってこない」だとか、そういう一見うまいこと言ってる風に見える言葉も、それはただの言葉なんですよね。たった一言の言葉が何かの答えだということは無いと思う。


#7 国道(サカヅキイヅミさん)
この小説自体がひとつの暗号であるのかもしれないけれど、僕には解けそうもないし、それよりもこのおどろおどろしさと美しさの同居する文章だけでもうおなかいっぱい楽しめた。
森の中の細い国道。どうして国道なんだろう、それは、たとえば都道府県道とか市町村道ではいけないのだろうか。これはまったく僕の偏見なんだけど、「国道」が一番匿名性が高い気がする。


#8 生きている証(心水 遼さん)
クラスメイトじゃなくて、ちゃんと専門家に相談して欲しいなあと思ってしまう。それから、死が生の究極の証なんかではないと信じていたい。


#9 公園(にんじんさん)
自分と会話したら、自分の声を客観的に聞くことの違和感に耐えられそうにない。
男の子の不思議っぷりはすごいと思う。マザー(糸井重里の)に出てくるキャラみたいだ。


#10 漂流(藤田岩巻さん)
これだから男って……と思われても仕方ない。ラストはなんとなくとってつけたような印象だった。


#11 証言者E(公文力さん)
主人公の怒りはどこからやってきているのだろう。主人公も、他の証言者達と同様に、「彼女」の良い面だけを見て彼女を評価しているように見える。
ただ、この実験的な構成をしたかっただけで、別に社会風刺してやろうっていうことじゃないんだろうな、とは思うけど。


#12 ワールドカップ特別お祭り騒ぎ(ハンニャさん)
サマソニ行きたいなー。フレーミングリップスとムームを見たいわー。


#13 擬装☆少女 千字一時物語2(黒田皐月さん)
突然、知らない人が勝手に先輩面して話し掛けてくるというのはどういう気分だろうか。たとえばカート・コバーンの顔がプリントしてあるTシャツを着て街を歩いているときに、「ニルヴァーナいいよねー」なんて声をかけられても困ってしまう。それとも、女装というものは女装している人同士の連帯感を大切にするのだろうか。
やはり、このふたりのやりとりの方を読みたいと思ってしまう。


#14 夢を見る世界(藤田竜馬さん)
批評家が実に批評家的で団塊の世代な発言をしているのを批判する一方で、主人公も実にステレオタイプ現代っ子の発言をしているのが滑稽だった。
僕は二次元を愛してるけど、夢を見られないわけでもなく、ちゃんとした三次元生命体として二次元を愛しております。


#15 旅人(正野京介さん)
「アイツ」はもうひとりの自分で、自分が幼いときに描いた楽園への地図を持って旅だっていったってことでいいのかな。これで、楽園とは何なのかのヒントとか、地図に描かれていることの説明があったら、もう少しはっきりと全体像を掴むことができたのだけど。これだけだと、なんとなく雰囲気だけになってしまって、流した涙の理由も、そしてそれが重要なのかどうかすらもわからなかった。


#16 打擲(しなのさん)
空気読めってことかなあ。理由もわからずバンバン頭を叩かれているのが、情景描写の真面目さとギャップがあって、なんだか笑えました。
打擲って変換で出てこない。みんなどうやって打ってるんだろう。


#17 海(西直さん)
ふたつの目が互いに離れていくときに感じた「晴れやかな気持ち」というのはどう解釈をしたらいいのだろう。いつも一緒だったふたつのものが分かたれるとき、寂しさと悲しさと同時にどこか晴れやかな気持ちを感じる、というのは、条件反射的に思いついた文章みたいで、その考えの根拠がなければなんとなく薄く感じてしまう。


#18 月の下で(qbcさん)
たとえ角を取ったとしても、少女がこどもを作ろうとしなければ、老飛行士の行動は無駄だったということになるのだろうか。いや、やはり、「こどもを作ることができない」というのと、「こどもを作ることはできるが、作ろうとしない」というのは別物だろう。自由とは可能性であり、だから可能性を与えられた少女があすどうなるか、だれも知らないのだ。


#19 ずんずんずん(宇加谷 研一郎さん)
「私はいつもそうしてきた」という発言。ほんとうだろうか。古田さんが以前から「ずんずん」していたかどうかは書いていない。あるいは、「ずんずん日記」における「私」と同一化したってことかな。だとしたらこれはそういう実験だったのかもしれない。


#20 旋回(ぼんよりさん)
思考がぐるぐるするときは、どうやっても答えが出ないときか、答えを出したくないときか、なんだろうなー。約束のことを思い出しているけれど、途中で何度も現実が挟み込まれてなかなか先へ進まない。その先を思い出したくないようにも思える。
と思ってたら、とむOKさんの感想を読んで、あーそういう読み方もあるのかと思いました。



#21 僕と幽霊(振子時計さん)
なにが恨めしいって、幽霊がVIPPER口調なのが恨めしい。主人公にまったく通じてない。チグハグなやりとりはコミカルというより、やはり恨めしさを思ってしまう。僕が2ちゃんねる嫌いというのもあるけど。


#22 擁卵(とむOKさん)
女の子にふられた時に感じるのは、切ないとか悔しいとか悲しいとかなんかその辺の感情がごちゃごちゃ混じって、虚無感なんかもふりかけられて、ちょっと一言では表現できない、というかふられた時に限らず本当の感情なんて単語だけで説明できないものだと思う。カワグチハナエにふられた後の主人公の行動を読むと、本当にはどんな風に思ってるのかわからないが、その感情を推察することができると思うし、むしろそっちの方が正解に近いような気がした。
卵については、明らかに現実的でないものであるにも関わらず、主人公はあまり気にしていないように見える。卵に対する主人公の反応は主に痒みであって、それは違和感の象徴であるように思えた。違和感ってのは、ズレであり、こうなるといいなという自分と現実の自分とのギャップである。と思考を飛躍させてみたけどだからなんだと言われても、これだ! とはっきり言うことはできないのであった。


#23 アビイロード(るるるぶ☆どっぐちゃんさん)
「わたし」は「娘」が手に怪我を負ったことに対して責任を感じているように思える。そして、花なんて買うものかと頑なに拒む。自分の手で腐らせたくないのかもしれない。「男」が花を燃やしてしまおうと油をかけるが、花は燃えることはない。雨が降ってきたし、何より、この寒すぎる街では本ですら燃やすことはできないのだ。花は燃えずに、そのまま、油に漬け込まれ、美しさを損なわずにずっとそこにありつづけるのだろう。


#24 再びうんこの話(曠野反次郎さん)
うんこを題材にしなければ書けない素晴らしい作品。赤い観覧車とうんこのある情景が鮮明で馬鹿馬鹿しくて良い。