第45期感想

短編はこちら
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#1 厄年(qbcさん)
全く救いのない話なんですが、父親の語り口が妙にコミカルなので実はそんなに大したことないんじゃないかという気がしてしまいます。いや、本人は必死なんだろうけど。表面的には冷め切っているように見えるこの家族も、ほんの些細なことで幸せな家庭になりそうな、そんなこと書いてないけど、でもそんな風に感じさせる不思議な印象でした。


#2 黒い骨(バズさん)
骨が自由に見えるというのも、主人公が黒い骨だというのも、あまり説得力がありませんでした。死というのは非常にお手軽なモチーフで、死について何かを書けばそれだけで教訓的に見えてしまうので、僕はなるべく避けるようにしています。素人にはおすすめできない


#3 野花に寄す(サカヅキイヅミさん)
途中からどんどん植物が増えていき、日常がいつの間にか非日常に置き換わっていく様子が素晴らしいです。初老の男とのやり取りをもう少し読みたかったですが、それは野暮というものでしょうか。


#4 駅(わたなべ かおるさん)
主人公と駅の関係が小説の大部分を使って説明されているのですが、結局のところ「故郷にも帰れないし都会にも行けない」という内容が言い方を変えて繰り返されているだけだった気がします。


#5 ミミズ(54notallさん)
伊藤潤二の漫画にありそうな感じがしました。良い意味で。死神はぜひ美少女でお願いします。


#6 拭えやしない(八神 花生さん)
なよなよした男で実にけしからん、傷口くらい拭ってやりなさいと思いました。綺麗な文体ですね。


#7 とりあえず(らいおん◎さん)
世界平和って、こういうことでしか成しえないのかもしれない。すごく楽しそう。


#8 前兆(笹帽子さん)
素敵な女の子ですなあ。この子の話をもっと聞きたい。


#9 破裂防止(りうめいさん)
qbcさんの作品とは逆に、やっちゃう話なんだけど、ものすごく理不尽でひどい旦那ですねこいつ。むしろ最後うまいこと刺さないで終わる方がタイトルにマッチする気がしました。


#10 足跡・オン・ザ・ライン(ものかさん)
足跡の正体は読者に丸投げなので推測ですが、これは妖怪ヒタヒタの話でしょうか。

妖怪ヒタヒタ
夜の学校や病院などで、廊下を歩いていてふと下を見ると裸足の足跡がうっすらついている。しかし廊下の向こうまで見てみても姿はない。そのまま足跡を辿って歩いていると、後ろからヒタヒタと足音が聞こえてくる。振り返ると誰もいなく、音も消えてしまう。そんな経験をした人がいたら、これは妖怪ヒタヒタの仕業である。特に悪さはしない。

ごめんなさい、今考えました。


#11 今際の際で(振子時計さん)
眼で見た相手の寿命が見えるというのは作者が勝手に作ったルールなんだけど、これを最後まで遵守していたのがよかったです。これが最後助かってたら陳腐な話になっていた気がします。展開が盛り上がったところで、最後の2行が恐ろしく淡々としているのが印象的でした。


#12 白い箱(しなのさん)
これ、映像で言うと逆回転ということになると思うのですが、文章だと、あまり効果的でないなと思いました。センテンス自体の構造は保たなければいけないからなあ。


#13 happy monday(公文力さん)
ハッピーマンデー、ブルーマンデーと言ったらマッドチェスターですね!ハシエンダ!(関係ない)
週末を丸ごと費やしてデートの計画を練るような人間が同時に4人と付き合えるものでしょうか。


#14 見えない舞台(三浦さん)
実際にこの舞台を見てみたいものですが、こんなにきっちりと奥行きをもった音を出すのは難しそうですね。


#15 菜の花摘んで(とむOKさん)
主人公か奥さんのどちらの記憶違いかわからないけれど、二人が幸せならそれで良いんだな、と、「誰だって話がかみ合っていない内が一番幸福なのだから」というのは藤舟さんの作品のラストの一文ですが、そういうものかもしれませんね。幸せそうで良い話でした。


#16 KARE(心水 遼さん)
どうしようもないくらい追い詰められた人たちって、このくらいのことやりかねない。現実にはあるはずがないんだけど、「誰でもいいから傍にいて欲しい」と願う二人が出会ったらこうなっちゃうっていう、まあギリギリですけどね。少しでもオトコに悪意があったら、もし女が下着まで脱いでいたら、もっと悲惨な話になってしまうところだったと思うので、そうですね、ギリギリでした。


#17 君の知らない、君の肖像(神倉 彼方さん)
モチーフが肖像画なので、声ではなく容姿について言及してもよかったかなと思います。


#18 小学生(Gabb--さん)
注意深く言葉が選ばれていて、本当に小学生が書いたような文章でした。きれいに落ちてますが、最後は、小学生らしい発想でもって更にトンデモナイ嘘だったりしたら、まあ僕の好みですけど。


#19 なあ、われピッツァくいたくないか(宇加谷 研一郎さん)
湿っぽくなりすぎず、かと言って馬鹿っぽくなりすぎず、すごくバランスがいいと思いました。兄のくだらないシャレも、弟がパプリカをうろ覚えなのも、下手すると興ざめな感じになりそうですが、うまく2人のキャラを浮き彫りにさせていて良かったです。


#20 生き霊たちの会話(藤舟さん)
「」で囲まれたのが被疑者、地の文が警官の台詞ですかね。言葉使いは丁寧ですが、すごく恐ろしいこと言ってますよね警官の人。


#21 マジック(西直さん)
手品というのは普通、コインが消えたり何もないところからハトが出たりするのを楽しむものだが、それはちゃんとタネがあるから安心して楽しめるのであって、たとえばカーテンなんていう何を考えてるのかわかんないような奴が手品を始めたら確かに不安でしょうがないだろうなあ。消したはいいけど「タネ忘れちゃった」ってはにかんだりしそう。杞憂なんだけど。わざわざ机動かしてまでカーテン抑えるなんて律儀な子だなあと思いました。


#22 夜路(ぼんよりさん)
理由もなく歩き続けるというのは、僕にとっては普通じゃない、ある種の罰のような行為に思えるのですが、主人公にしてみれば立ち止まったときの方が、いつもの自分じゃなくなって、夜の暗さのイメージも変わってしまう。だから主人公は歩き続けなきゃいけないし、そうしている限り夜の暗さはマシュマロみたいにふわっとしているんだろうと思いました。そんな風に夜を感じることができるのは羨ましい気がします。


#23 痴呆蓄音機(八海宵一さん)
痴呆だなんてとんでもない、よくできた蓄音機です。「あなろぐ、えんばんくるくるかいてんき。」というところが可愛らしくて好きです。


#24 ツールドフランス(るるるぶ☆どっぐちゃんさん)
るるぶさんの作品は、何かが何かのメタファーであるような気もするけど、そんなこと関係なく書いてある言葉どおりに読んでも楽しめるところが好きです。


#25 ペペロンチーノ・スパゲティ(曠野反次郎さん)
明らかな事実について、いったんそれを反故にしてしまって、さてそれは果たして本当に事実なのかと考え始めると、考えはどんどん発散していって収束することがない、気付いたらえらく時間が経っていた、というようなことが、多々あります。ラストはなんか、主人公の頭の上に雲状のふきだしがホワンホワン浮かんできてるみたいな漫画的表現を勝手に思い浮かべてニヤニヤしてしまいました。主人公が「boy meat garlic」と口に出して言わないことを祈ります。


#26 ねずみ(壱倉さん)
おばあちゃん家でよく、天井の上をねずみが走り回っていたのですが、実際に本物に出くわしたことはありません。ねずみは甲高い声という勝手なイメージを持っていましたが、渋くて良い声だったらどうなんでしょう、その声に合った台詞なり動作なりが書かれていたら良かった気もします。


#27 あこがれ(ハンニャさん)
すごくくだらない(褒め言葉)!「それは無理だ! 生き物だから!」がツボでした。この言葉の選び方はすごいですね。