おれから言葉を取ったらなにが残るのか、などと思っていた時期もあったが、実際にはいろいろ残った。それはただの一部でしかなかった。言葉を発さないおれもまたおれだったのだ。


と言いつつ、今は言葉を繰る仕事に就いている。わたしの言葉によって人々の人生が左右されるのを見るのは矮小な自尊心を満足させるに十分すぎるし、時には、過剰なのではとおそろしくもなる。だから、というわけでもないが、いまは何か強い言葉を書き記す気になれない。なんて、偉そうに。おれである必然性は無いのだ。それは肝に銘じておかなけらばならない。おれの嘘は。


ほんとうの言葉はあの人のためにとっておこう。ささやいて伝えよう。