シクラメンの香りはじめて知った今日、あなたの名前教えてよ」


シクラメンという名前を聞いたことはあったが、実物を今日はじめて見た。知った。香りも。だがそれは本当にシクラメンだったろうか。ただ紙にそう書いてあっただけだ。シクラメン、と。/それはただの言葉だ。識別するための記号だ。ものごとの本質ではない。/たとえば「花325号」と呼んだとしても不都合はない。/繰り返すが、それはただの言葉だ。そして、われわれが互いに意思疎通するための唯一の道具だ。不確かな。流動的な。刹那的な。/だからこそ欲するということがあるだろうか。/ごくごく細い糸だ。しかし手繰り寄せればつながっているのだ。あなたにも。/だからこそ。/あなたの名前教えてよ。