第52期感想

短編:http://tanpen.jp/
お待ちかね!1/12より日程を変更して対戦再開されておりますよ!
思いっきりネタバレしてたりするので、ちゃんと作品を読んでからにしてくださいネ。

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#1 はつかねずみ(篠未来さん)
「白いねずみもいるのに、どうして鼠色は灰色なのか」という話かと思ったら違った。
連想によって物語を作るのなら、その連想はもっともらしい根拠がないと無味乾燥なものになってしまうと思うのです。何故「雪」ではいけなくて、「雲」なら許されるのか。「雲」のイメージは「はつかねずみ」にふさわしいのか。雪でできているから20日も経てば溶けて消えてしまう、だから「はつかねずみ」だ、なんて展開もありなんですよね。「なんでもあり」だからこそ、「どうしてそれを選んだか」が重視されるのです。

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#2 『ライフバーゲン』(長月夕子さん)
最後の台詞の引用が秀逸。この劇を知らないので、脚本に書いてある台詞なのか、本当は自分が作った台詞なのかはわかりませんが、わざわざ出典が書いてあるから前者なのかな。
きっとこの「N」という人は、第50期の『遠くを見つめる』の男役もうまく演じてくれたのだろうな、と思わせます。

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#3 橋を渡る(otokichisupairaruさん)
何か言いたいことがありそうなんだけれど、結局何を伝えたいのかわかりませんでした。断片的過ぎて状況が掴みづらい。
「彼は、急いで洋服に着替えながら、/何度も、何かに問い、何かに怒っていた。」という文は良かったです。人間を描けてると思いました。

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#4 髭(わらさん)
「輝喜」が自身の髭についてどう思っているか、というところがこの物語のキモだと思うのですが、僕はひどくひねくれた性格であるので、あまりにも立派な答えに納得がいかないのでした。これはこれでありだと思いますが。
こういう、一見まともそうに見えるけれど実はものすごく変てこなことをしてる話は好きです。

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#5 擬装☆少女 千字一時物語7(黒田皐月さん)
最初は姉たちの輪の中にちゃんと入りたい、という目的で女装をはじめたはずなのに、途中から少しずれてしまったように思います。外に出て同級生と会うことで、物語がどんどん拡散していってしまい、主人公は何をしたいのか、この物語はいったい何についての話なのかがよくわからなくなっています。「姉と僕」の話なのか、「女になりたい僕」なのか、もう少しピンポイントで攻めるとキュっとひきしまるんじゃないでしょうか。
そういえばと思って読み返してみたら、第49期のqbcさんの感想でも同じようなことについて言及されてますね。(http://tanpen.jp/bbs/nbbs.cgi/forum2/489

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#6 心の中で(尚さん)
それがまたPVもびっくりするほどかっこいいんですよねこの曲は。(参考:http://www.youtube.com/watch?v=EsZYqaSc4cU
僕個人の意見としては、音楽にすら逃げ込めなくてどうする、と思うわけです。というか、音楽は違う自分になるための魔法みたいなものだと思います(それだけではないけど)。
自己卑下はとても気持ちがいいものだし、話のネタにもなりやすい。でも、ただ「不安だ」「どうしたらいいんだろう」というだけでは、誰だってそうなんです。その不安や焦燥感とどう折り合いをつけていくか(必ずしも乗り越える必要はない)について読みたいものです。

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#7 神様(たけやんさん)
面白いので、あと300字分付け加えて欲しいくらいでした。あと少しだけ前半部分になにか書き足せば、もっと気持ちよく最後ですとーんと落ちるような気がします。
僕は、ショートショートはオチがうっすら予想されるくらいでちょうどいいと思ってる人なので、もう少し人形らしい動きがあってもよかったです。っていうのは少数意見かもしれないな。

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#8 voodoo magic(公文力さん)
なんと形容したらいいのかわからないけれど、変てこで面白いです。ふつうの話をしているようで、どこか外れてるんですね。この外し具合が好きです。
普通の善良な市民に見える人々の内側は、実はぐちゃぐちゃどろどろしてるんだ、というのが公文力さんの文章の一貫したテーマなのかもしれない。
悪魔崇拝、ハードロック、といえばブラックサバスか。

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#9 寒く乾いた空(壱倉柊さん)
先生と会話するところが、あまりにも何もなさすぎて、もう少し何かあると好きだったかも。
「寒さと空しさで生気を失う」というのが夢と現実を対比させてるのだということはわかりますが、「寒さ」はどちらにも共通する同じものであるとしても、先生の「空しさ」と主人公の「空しさ」は別物であるはずで、そう考えるとこの「空しさ」というのは一体何なんだろうと思いました。

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#10 妹の血(qbcさん)
ホヤってたまにスーパーで見るけどあれ貝なんですかね。(追記:と思ってたらキーワードリンクされてなっとくしたよはてなってちょうべんり!)
「マンドラゴラ」と「ちやほや」の連想部分は文句のつけどころもなく、面白いです。でもこれ、主人公は妹について連想してるので、しかもその妹は舞台に登場してるので、もう少し、妹の内面まで見えてくると面白いかなあと思いました。「妊娠しちゃったから堕ろさなきゃ」という台詞が、物語の流れからいくとこう言うのが妥当なんだけど、これがもっと人間味を浮き彫りにするような台詞だったら……ってなんか注文が厳しいですが、qbcさんだし、みんな誉めるだろうし、実際すごい面白いし、これくらい言っちゃってもいいよねテヘって感じで。

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#11 切山椒(宇加谷 研一郎さん)
とても1000字とは思えないボリューム感。「遠慮なくもらった。いい匂いがしてうまかった。」という部分だけでもう主人公のキャラクターがだいたいわかってしまいます。登場人物が全員ちゃんと血と肉を与えられてるんですよね。だからもう勝手に動いてるんだろうし、同じ人物で違う話も書けちゃうんだろうと思います。

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#12 pm 5:00 教室(熊の子さん)
けっこうありがちなシチュエーションですが、電源をオフにしちゃう意外と大胆な主人公にびっくりしました。でもこれだけ大胆になっちゃったんだから、最後は待ちじゃなくてイケイケでもいいんじゃないかと思いました。電源をオフにするところをわざと見えるようにしてたとかならいいんですけど。

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#13 年月(川野直己さん)
今まで、少ない文字数の作品って、物足りないと思うことばかりだったんですけれど、これはもう付け足すことが何も無いなと思いました。俗っぽい言い方をすれば、ひきこもりの王様みたいな生活なのに、考え方が美しいです。

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#14 ロイヤルゼリーちゃんズ 一般道東横トライアル激流殺し人名救出ライヴ(ハンニャ一家(大家族)さん)
「はい。おれもびっくりした。」で笑いました。
こういう人が真面目なストーリー物を書いたりするとすっごい化けたりするんですが、このままでも全然かまいません。やりたいようにやっちゃって欲しいと思います。

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#15 後ろの背面(くわずさん)
なんだか壮大な詭弁を聞かされている気分だけれど、本能なのである、との断言に居住まいを正さずにいられません。
かたい文体ですし、思想のながれもかっしりしてるんですが、ペニスを蜂に刺されてインポテンツになったと思い込むってすごい変な話ですよね。いや、まあそういうことも有り得るんだろうけど、真面目な顔して言われるとつい噴き出しちゃう話というか。

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#16 あの日の夕陽は今も(曠野反次郎さん)
僕は遠山の金さんごっこをやったこともなく(ひとりでやってたことはあるけど。シャツの首まわりを伸ばして怒られてた)、いつも周りにちゃちゃを入れる女子がつきまとっていたということもないのですが、中学時代ってこんな感じだったよなあとノスタルジーをかきたてられました。「太田祐子」の役回りといい、隙のない文章だと思います。

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#17 コンピュータミュージック(るるるぶ☆どっぐちゃんさん)
どんどんどんどんずたずたになっていきますね。語感とイメージだけで勝負したら右に出る人はいないと思います。そろそろ使い慣れたモチーフを捨てて全く別のことを書いて欲しい気もしますが。

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#18 風の街(もぐら)
もう少し字数が欲しい。人物が平べったい。プロットに毛が生えたようなものを出すんじゃねえと叱られたら土下座して靴を舐めるより他ない。

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#19 花房さん(マッド・スコーピオンさん)
主人公と「花房さん」の立ち位置がよくわかりませんでした。「裏アングラっちゃってるよ、チェルノブイリった感じだよ、花房。」が何を言ってるのかわかればなー。「アングラ」に「裏」がついたら何なんだろう。
「どんなときも霊感が強いということにしとけば、あまり煙たがられないで済む」という表現はなんか面白いです。
「aka」は「a.k.a.」だろうか。