第70期感想

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おれはどちらかというとストーリーそのものよりも個々の描写というか言葉の結びつきに興味があるので、みんなもっと構成なんてほっといて書きたいことを書きたいようにだーっと書いちゃえばいいのにと思う。
今回はなるべく頭の中で思った通りに書いた。まさに感想だ。
追記:と言いつつ、わかりづらい文章を批判する傾向があった。読み返して気づいた。つまり、わかりやすい文章はむずかしいよって話だ。おまえ以外の人間はぜんいんおまえじゃないんだよ。

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ヒルがクラスのみんなから(担任からさえも)いじめられているというくだりがどこにもつながっていかないので、これは何なんだろうと考えていたが、単に「プールが嫌い」というオチに至るまでの前フリでしかないのだろう。プールに関するエピソードを思いつきで挿入しただけだ。キャラクターの使い捨てだ。愛情がない。そもそも、この物語に対する愛情がない。主人公に『午後雨が降るという天気がいいなぁ』と語らせておきながら、プールの授業は一時間目というプロットの頓着さ。プールが嫌いな理由が『右足の太ももの裏に、十字架のようにあるそのキズ』であるという投げっぱなし。背負っているから十字架なのか? 陳腐だ。

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おとことおんなの関係は世界平和と関係あるか? ないだろう。ないぜ。むしろその対極になり得る場合もある。異性として意識していなかったはずの同期にあれこれってもしかして恋!?というモチーフはおそろしく予定調和であり、まさに『世界平和』ではあるが。

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『美しい動き』と書けば読者が『美しい動き』を想像してくれると思ったら大間違いだ。おれはそんなに暇じゃないし、頭もよくない。茶道の動きも知らない。だってさ、ホテルの業務で茶道の動きって、何よ。何してるのよこの人。ベッドメイキング? ならその場面を描けばいい。これが漫画なら直接『美しい動き』の絵を見せつけることができる。しかし、これはただの言葉だ。方向性としては、独裁者の側面と美しい動きの落差をもっと見せた方がいいんじゃないかと思う。だって落差に恋しちゃったんだから。たとえば『何々をする!あれをする!言われたことはさっさとやる!…といった言い方で、それを真面目に仕事をしている者にまでキツい口調を変えず、一事が万事、俺様流といったイメージだ。細谷にとって世界は自分が中心のようだ。』を具体的なエピソードに変えるとかな。あとはね、舞台がラブホテルである必然性がこれでは皆無。上で述べたこととも被るけど、主人公たちがなにやってるかさっぱり見えてこない。

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テーマが不鮮明。兵士の機転を見せたかったのか。繰り返される不条理(王様の交代劇のことね)を描きたかったのか。ただなんとなくショートショートを書いてみただけなのか。ちなみにおれはオチ重視のショートショートに魅力を感じないのだった。

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夏はすべての気が減退する季節であって、もちろん性欲も減退する。おれの話だ。おまえの話を聞こう。ふむふむ。それは性欲でなくフラストレーション、おそらく、暑さに対するフラストレーションであるな。というわけで夏=性欲爆発という前提に納得できないなあ。夏=水着=性欲ラインならわかるが。そんでひとつびっくりしたことがあるんだけど、この作者、自分の携帯のメールアドレス公開しちゃってんじゃん。気づいてないのかな。

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月、約束、ラベンダー、発作、死、……。妄想乙女のぶっとんだことだまがハレーションを起こし、ボルテージ急上昇の自己完結型世界。そのなかで、月だけがリアリティの塊。もっともっと妄想希望。まじめに妄想すると、妄想しすぎると、それがまじめであればあるほど、それは笑いにつながっちゃうのよね。『――結局……灯にラベンダーの意味を教えてあげることも出来ずに、発作起こして、死んじゃったんだっけな……』おれはこの一文にこめた作者の切実な想いと、それにも関らず、打ち込まれた稚拙な言葉からたちあらわれるどうしようもないほどの軽さに、両者のあいだに横たわる絶望的な乖離に、笑った。

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窓から覗いてたら牢屋にぶちこまれったってことか。さておき、日本語として意味が不明な文章があった。『隣家の夫は毎日のように午後帰宅するほど、夫は偉くなさそうだ。』よくわからない。言いたかったのは「隣家の夫は午後帰宅するような身分なわけないので、午後やってくる男は夫ではない」ってことだろ。どうしてそう書いてくれないのわかりづらい。『両者の結果が中和して』というのもよくわからない。『税金を長期的に消費』+『隣家の迷惑な騒音は消滅する』の中和? 謎だ。日本語はむずかしい。

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たびかさなるミスと自己嫌悪という題材はなんだか御しやすそうに見える。自虐系サイトとかよくあるし。「死にたくなる」で笑えるかどうかってのはそいつのキャラに依るのでもっと愛着湧くようなキャラを生成する。そんで、おれだったらどこまでも「誰も傷つかないようなミス」にこだわるね。だってこれは笑い話だから。笑えない人がでてきたら残念だから。

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雨が降って髪の毛が濡れていたっていうから外にいるのかと思ったら中かよ。玄関に向かうって。外→中→外の流れ? つまり、雨の中、傘をささずに彼女が僕の部屋までやってきて、話をして、そしてまた出て行ったということなのか。それならそれで、話が広がるのだけれど、ほんとうにそんなことまで考えているのだろうか、あやしい。雰囲気しか考えてなかったのではと疑う。違うなら違うで、いいのだけれど。あーでも、『恋愛は通り過ぎてく』ってのもなんか考えなしに使ってるぽいしな。通り過ぎてってことは、やってきて、それからどこかへいってしまう、ってことじゃないのかな。この話の主題は「不器用な僕、それでも恋はつづいていく」ってことだから、結びの言葉として適当なのかどうか疑問が残る。

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猿、出てきた! フェンシングの場面はおもしろい。「華麗なうごき」や「緊張感」をただのことばでなく描写であらわしていて良い。主人公の心の動きはふつう。『彼らの年齢だった頃〜』から途端にふつうになった。

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もっと島の話を聞きたかったな。『左手には道の端に年寄りが列を成して座っていた。よく見ると彼らは島のミニチュア模型を作っていた。』こういうのがもっとたくさん欲しい。嘘紀行文好き。対して、『少年の横顔を見ると、僕の父に似ていた。』はいらないと思った。使うならもっと広げるべきだし、無きゃ無いで問題ない。なんとなく物足りなくて挿入してみましたといった印象。細かいエピソードの連なりで『島』を浮かび上がらせるというやり方なのかとおもったが後半の怪談話はどういうつもりなのかいまいち意図が不明だった。

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『そのわけは』→無駄。いらない。
『心の柱が折れた様な、心ここにあらずの様な目をしているのだ。しかし母は、以前にも増して口数は多くなり、表情も豊かになった』→『心ここにあらずの様な目』と『表情も豊かになった』は同居し得るのか。雰囲気に流されていやしないか。
『傷物にさわるような』→「腫物にさわるような」ではないのか。
『疲れとストレスが限界にきていたらしい』→あまりにも短絡的に過ぎる。そんなに安っぽい死でいいのか。というかこんな母のどこが『強い女性』なのか。

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万引きは欲求不満→キュウリ万引き→キュウリでオナニーという非常に下品な思い付きで書かれた小説だよなこれ。パパが浮気してママは見て見ぬふりして家にいるのは不快で万引きに手を出して、そしたらママが万引きしてるところ発見、ってありふれたネタだなあ。いちおうこの辺りで言っておくけど、おれは別にありふれた話を否定してるわけじゃないからね。

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ここにきてようやくわかったのだが、これら一連の物語は「女装する話」じゃなくて「おんなのこみたいにかわいいおとこのこが女装する話」なのであった。もっと言えば、「おんなのこの服をかわいく着こなす人の話」なのである。おんなのこの服を着るのが男である必然性がない。たとえば、今回の話の主人公を「一人称が『僕』のおんなのこ」と読み替えてみてもほとんど不都合がない。つまり物語の本質は「女装」ではなく、「かわいい服をかわいく着こなす」ことである。9番目のお話(http://tanpen.jp/54/16.html)が好評だった理由は、その本質をとことん描ききってみせたからだ。ということでおれは納得した。女装なんてガジェット脱ぎ捨ててしまえばいいのに。今回の話だったら、浴衣でりんご飴を舐めるかわいらしさをとことん描けばよかったのにと思う。
もうひとつ。『夏休みにもなっていないのに夏祭りとは早いと思うのだが、昔から決まっていることには何となく逆らえない。』おれはこういう文章がとてもとても気になってしまう。夏休み前に夏祭りがあるのが昔から決まっていることなら、それを『早い』と思う根拠が不明だ。主人公にとって「夏」の定義は夏休み以降の時期を指すのか? そうではない。要するにこれは「夏祭りって夏休み中にあるよね」っていう黒田さんの「ふつう」で、この物語内の常識を判断しているのではないかと思う。と思ったが、「夏祭りは夏休み中にやれよな」って意味なのか? いやでもそれだと時期が早い/遅いという判断はおかしくなるか。とにかく困るんだよな、こういう文章。

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画一化をやめようという意見が世間にとって画一なものとなることを夢見るという矛盾、と言いたいだけの話。この手の話、よく見かけるよね。「うまいこと思いつきました」的な。マスコミに対する言及もひじょうにあさはか。

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同じような内容を書き表すのに違う表現をつかおうとしているところなど、とても好感が持てる。『とつぜん』をひらがなで書くバランス感覚も好きだ。しかし、個々の文が意外とありきたりなところが残念である。『砂場に建設された不恰好な城や、敷き詰められて茶色く萎びた落ち葉の風によってそれぞれの表皮を擦れ合わせるかさかさという音、果ては己の手の届かぬ高さに翼を躍動させながら飛翔する鴉の影』この辺りなんかは、どこかで見た表現の寄せ集めのように見えなくもない。こういう部分で、はっとする描写があれば迷いなく票を投じていたのだが。
追記2:いや、そもそも描写なんて、言葉なんて、どこかで見たものの寄せ集めじゃないか。そうだった。ではおれはなにを期待しているのか。これまでに見たこともないような言葉のつなげかた、一見関係ないような言葉と言葉をむりやりむすびつけて、それでいてすばらしい説得力でもっておれをぶっとばしてくれるような、そういうの。

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おれは言葉あそび系の話がわりと好きだ。いろんなところで有機的に描写が結びつくみたいな。「おお、おお」と感嘆しながら読んだ。しかもその「熱海と網タイツ」というイメージを最後まで執拗なまでに繰り返すところが妄想末永く良好と思った。

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これがふだんおれたちが使っているのと同じ言葉なのか? とてもふしぎだ。宇宙船も街もそれだけではふつうの言葉なのに『宇宙船街』と書かれると異常なかっこよさになる。『太陽王先生』も然り。真似しようとしてもまったく別物になる。とてもふしぎだ。

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日記か。狙ってんだか素なんだかわからないけどなんだかほっとする文章だな。今期の中にあっては特に。でも、何度も読みなおそうとまでは思わなかった。

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冒頭の老人が女に運転の仕方を教えてるところはとてもよかった。しかしそれ以降、平凡な物語に落とし込まれていくような印象。大仰な情景描写でなんとかふみとどまっている。
追記3:ふみとどまっているどころの話じゃないなこれは。大仰な情景描写こそが主人公なんだな。だからこそどこまでも平凡な物語に徹してるんだな。そうなんだな。しかしだな、よく考えてみればおれはたとえば「おじいちゃんハッスル&昇天」みたいなばかばなしが好きなのに、どういうわけかこの作品には手放しでノれないのだよな。ばかさが足りないから? ではラストが腹上死だったら? 腹上死をおそろしくおおげさにおごそかにおもおもしく描くには? これ宿題な。おれの。

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最後の『ごめんね』って、みんなわかった? おれはわからなかった。乙女心むずかしい。『わかいバンドのおこなうライブは鑑賞する者たちをうねりころぎまわし五千人余の静止した死の世界からの御遣いたちがぶきみな歌声の空中で水ぶくれがおこさせながら旋律だけは絶佳めきそのように見えた。夜にいつまでもむくれただれた肌を世間にみせびらかしているような無防備な気分に少女はうすらこがされたようにすべてわすれたいとおもった。』この言葉のチョイスはすごい。うねりころぎまわし! うすらこがされ! 突飛なだけでない妙な説得力を持つ。

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シュークリームさえ食わしときゃ女が落ちるとでも思っているのか! ケイトがかわいそうなので主人公は地獄に落ちるべき。ああケイト。三つ編みでそばかすのケイト。ちょっとぽっちゃりしていてダサいTシャツ(&パツンパツンのジーパン)を着てるケイト。最近コンタクトに変えたケイト……。蜘蛛の糸との結び付きは不明。